カジキ釣り
九州南端をかすめた黒潮本流は紀伊半島潮岬に接岸し、うねりながら房総沖へ向かう。周参見港は潮岬の西方約二十キロにあって湾口をカツオ島とエビ島に守られた天然の良港。ここで本格的ビルフィッシュ（マーリン・カジキマグロ）ゲームが始まって今年は五年目。
毎年、大会期間中に二百、三百キロのブルーマーリンが数あがるが、今年は百二十キロ弱の小物にとどまった。
期間中、東は伊豆半島、西は姫路、徳島などからハイテク機器満載の大型クルージングボートが駆けつけ、丸二日間カジキ釣りを競い合う（今回は七十四艇・二百六十四名がエントリー）。不況などはどこ吹く風。紀伊半島枯木灘海域一帯は、お金持ちたちの肉体美が躍動する豪華艇の天下である。私は貧乏だから枠外の体験参加。
乗った知人の三十五フィート艇には、冷房の効いたキャビンに、美人の奥さんと冷えたビールが積んであった。フライングブリッジ（二階操舵席）からたびたびキャビンへ降りてビール持ち出すと、奥さんが日焼け防止用に着込んだミノ虫服から顔をだして「どうぞキャビンでおあがりください」と言う。だが、ビールには潮風とカンカン照りがご馳走である。
台風もどきの低気圧が近づきつつあって、うねりと波が高かった。ヒット（当たり）は一度だけ。バシッ！とラインが弾けてロットが激しく上下し、リールのスプールが逆転した。アングラー（艇オーナーの息子さん）がファイティングチェアーに座り、ロットを受け取り、いざファイトと身構えると針が外れた。
総員ガクッ！
逃げたカジキは大きかった。